梶ピエールのブログ

はてなダイアリー「梶ピエールの備忘録。」より移行しました。

ナマ馬英九ですよ

 台湾の政治をめぐっては陳水扁政権の仕掛けた「終統(国家統一綱領、国家統一委員会の廃止)」のあと3月に入って藍色(国民党)、緑色(民進党)両陣営主催の大規模なデモが相次いで開催されるなど、相変わらず動きが激しいが、そんな中で馬英九国民党主席が19日からアメリカ各地を精力的に回って講演している。
 一応メインの訪問目的は台北市長としての「都市間交流」ということになっているらしいが、ワシントンでは政府要人と会談してアメリカからの武器購入について民進党に圧力をかけるという点で合意したという報道もなされているし、ま、誰もそんなこと本気にしていないでしょう。

日本の報道では、産経新聞山本秀也記者の記事が比較的詳しい。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060324-00000012-san-int
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060325-00000012-san-int

 さて、その馬英九バークレーのキャンパスでも講演をするということを数日前に知ったので、ミーハーな僕は朝イチの講演に間に合うよう少しだけ早く起きて大学に出かけた。10分前に会場に着くと、かなりこじんまりとしたホールはすでに満席で廊下にも人があふれている状態。僕の立っていたところにはちょうど台湾のテレビ局のカメラが2台置いてあって、報道スタッフも狭苦しいところを動くのが大変そうだった。アメリカの大学はこういうところの段取りが本当にいい加減である。もう少し広いホールが押さえられなかったんだろうか。
 講演といっても馬氏が一人でしゃべったのは最初の15分だけで、あとはInstitute for East Asian Studies の所長およびオーディエンスとの質疑応答が45分ほど。会場は9割以上チャイニーズだったが、馬氏は終始流暢な英語で通した。
 まあ、内容はあちこちで同じことをしゃべっているんだろうが、中台関係についてこれまでの「五つの'No'」を堅持しつつ、新たな前向きの提案として「五つの'Do'」(上記の産経の記事参照)を唱えていく、というのがキモらしい。講演の中であからさまに陳水扁政権の悪口を言うことはなく、また日本など他のアジア諸国との関係について語ることもなかった。あと、英語の講演で台湾のことは'Taiwan'、中国のことは'PRC(Peaple Republic China)'と表現していたのが印象的だった。

 馬氏の英語は時折ジョークを交えて笑いをとるなど僕などにはネイティブの英語と区別がつかないくらい完璧なレベルで、その政治的主張の中身はともかく、上記の「五つの'Do'」にみられるように簡潔な表現でわかりやすく語っている印象を受けるので(それに男前だしw)、アメリカのメディアや政治家などにはかなり好印象を与えたのではないだろうか。
 ハーバードの講演などでは独立派の学生から厳しい質問が出された、という報道もあるようだが、バークレーの講演では全体的に歓迎ムードが濃厚であり、それどころか「2008年、馬英九が台湾を救う」と書いたプラカードをもってテレビカメラにアピールしている学生までいた。やれやれ。

 それにしても、こちらに来て華人系の情報については新聞・テレビ・イベント・街頭でのパフォーマンスなど、なんでもできるだけ気をつけてみるようにしているのだが、台湾の「緑」系の人々が何らかの情報発信しているところにこれまでお目にかかったことがない。まあサンフランシスコのチャイナタウンに古くから住んでいる華人には国民党の関係者が多いので当然といえば当然かもしれないが。「緑」系の人たちはベイエリアにはあまり住まないのか、それとも住んでいても政治的な活動は行わずにおとなしくしているのだろうか。