Bricks経済研究所の門倉貴史さんが中国のGDP統計の問題点についてレポートを発表している。
http://www004.upp.so-net.ne.jp/kadokura/rport20060115a.pdf
基本的に妥当な見解だと思う。その上で、以下の点を付け加えておきたい。
1.地方の統計と全国の統計との関係について。門倉氏のレポートでは地方のGDPデータを中央で集計する際に水増し分を取り除いて計算しなおしているように書いてあるが、実際は地方と中央では全く違った方法でGDPの計算がなされていると考えたほうがよい。例えば中央の企業統計については、98年ごろから、個々の企業が行う申告をもとにして集計値を計算する「社会主義的な」方式から、統計局が行うサンプル調査をベースに集計を行うやり方へと変更が行われた。これに対して地方の統計はいまだに旧来の自己申告方式に基づいており、「水増し」の余地が残されている(http://www.21ccs.jp/china_watching/KeyNumber_NAKAMURA/Key_number_03.html)。
2.GDP成長率と電力消費量との比較について。98年前後のGDP成長率の過大評価の可能性はよく指摘されるが、注意すべきはこの時期の電力消費量もかなり過少に評価されている可能性があることだ。というのも、この時期には地方における多数の零細な炭鉱が閉鎖を命じられたため、これらの炭鉱が閉鎖命令後もヤミ生産を行い、それらを用いたヤミ発電が大規模に行われた可能性があるからである(id:kaikaji:20050328)。
3.実質GDP算出の際のデフレータについて。実質GDPの成長率は、名目GDPの絶対値だけでなく、実質値を計算するためのデフレータの値によっても左右される。ところがこのデフレータの値は実際の価格上昇を正確に反映しておらず、過少評価されているといわれている。デフレータの過小評価は実質成長率の過大評価をもたらすが、それがどの程度なのかはまだ明らかになっていない。ただし一般的に物価上昇率が高いほどこの過大評価が大きくなると考えられるので、近年においてはこの効果はそれほど大きくないと思われる。