火曜日の夜から水曜にかけて、アメリカのローカル発のニュースでいくつか興味深い動きがあった。まずカリフォルニアの住民投票選挙では、シュワルツネッガーが提出した公立学校教師のテニュア取得の制限などを含む保守的な行革案が全て否決された(写真―それにしても負けたくせになぜこんなにうれしそうなのだこのおじさんは)。一方、カンザス州では、かねてから注目を集めていた、進化論への懐疑を盛り込んだ保守主義的な科学教育のガイドラインがとうとう採択されてしまった。
http://cnn.co.jp/usa/CNN200511090027.html
http://www.nytimes.com/2005/11/09/national/09kansas.html
というわけでこの二つのニュースが同時に出てくるところがとりあえず現代のアメリカということなんだろう、となんとなく勝手に納得してしまった次第。
カンザスでのことは、まあシャレにならない現象ではあるのだが、個人的にはこれをかねてから反進化論的な報道姿勢が目立つ産経新聞がいったいどのように報じるのかちょっと気になっている。ただ、少し前あちこちでネタにされた(id:shinichiroinaba:20050928、id:kibashiri:20051009)この記事は確かにどうしようもなくひどいものだったが、同じ産経でも、下記の松尾理也記者による記事はかなり良心的なものだと思う。
http://www.sankei.co.jp/databox/route66/050704b.html
http://www.sankei.co.jp/databox/route66/050718b.html
例えば下記のような箇所はカンザスにおける理科教育の実態を伝える描写としてなかなか貴重なものではないだろうか。
スタンはカリキュラムにある以上、授業では進化論も教えなければならない。
そんな夜、スタンの自宅には決まって親たちからの電話がかかり続ける。「人間がサルから進化しただって?」「子供に悪い影響を与える」−。スタンは抗議を黙って聞くほかない。
次の週、スタンはパラクシー川の岩をテーマに取り上げ、進化論には未解明の部分があり、さまざまな意見があることを教える。そして、判断するのは生徒たち自身だと告げる。その晩、スタンの自宅は再び、電話が鳴りっ放しになる。今度は称賛の電話である。
さて、この産経新聞の連載企画「ルート66を行く−保守のアメリカ」は、連載されていたときは全然気がつかなくて今回初めて発見したのだが、改めて読んでみるとアメリカにおける草の根保守主義に関する数少ない良質の紹介記事としてどれも興味深い。特にオクラハマの州兵に関する取材記事などはイラク戦争に反対する立場からも必見のものではないだろうか。産経新聞社の報道姿勢はともかくとして、この松尾記者による連載の基本的なスタンスは「日本ではアメリカ草の根保守に関する情報が少なすぎる、とにかく彼ら/彼女の肉声に耳を傾けてみよう」というものに思える。どのような国であれ「他者」を報道対象にしようととき、それは極めてまっとうな姿勢だといっていいだろう。