さて、バークレーでは『明報』『星島日報』『世界日報』など香港・台湾で発行されている華字新聞が日本よりはるかに容易に手に入るので、ほぼ毎日どれかを買ったり中華料理屋においてあるのを読んだりするわけだが、このところこれらの新聞では台湾の著名な作家・著述家である「李敖」氏が北京大学や清華大学で行った講演の模様が連日比較的大きなニュースとして報道されている。それも今日は「共産党は消滅する」と発言して政府当局をあわてさせたとか、次の日は逆に共産党を持ち上げる発言をしたとか、ほとんど政府要人の訪問のようにその発言の一つ一つが注目を集めている模様なのだ。
『世界日報』
http://www.chineseworld.com/wj-topic-1.php?nt_seq_id=1238456&sc_seq_id=1601
http://www.chineseworld.com/wj-topic-1.php?nt_seq_id=1238965&sc_seq_id=1604
http://www.chineseworld.com/wj-topic-1.php?nt_seq_id=1239586&sc_seq_id=1605
『星島日報』
http://www.singtao.com/breakingnews/20050923e141236.asp
この李敖氏は、日本ではほとんど知られていないが大陸でも一部の家庭やホテルで視聴することのできる香港のチャンネル「鳳凰電視台」でレギュラー番組を持っており、中華圏ではほとんど知らない人はないといっていいほど名前のよく知られた人物である(たぶん)。その経歴を中国語版のウィキペディアで調べてみると、
1935年 ハルピン市に生まれる(本籍は山東省)
1937年 一家で北京に移住
1949年 台湾に移住
1961年 国民党の一党独裁を批判する文章を雑誌に発表
1969年 台湾独立運動の先駆者である彭明敏の出国を助けたため政府に「台独分子」とのレッテルを貼られ、自宅軟禁に置かれた後、1971年に正式に逮捕される(5年後に釈放)。
1980年代 盛んに文筆活動を始める。
2000年 「新党(中台統一を掲げる外省人中心の政党)」を代表して台湾総統選に出馬しようとするも、最終的には宋楚瑜を支持。
2004年 立法院議会に無所属として立候補、当選
・・どう理解すればいいんでしょうね、この経歴は。僕はこの人が鳳凰テレビでしゃべっているのを数回見ただけだが、とにかく強烈な中華ナショナリズムの持ち主で、口を開けば陳水扁と民進党をけなし、小泉をけなし、日本の右傾化を警告するような言葉ばかりでてくる、まあ日本で言えば竹村健一のような人物だというのが率直な印象である。こういった人物がかつての台湾民主化運動の一翼を担っていた、という事実は、丸川哲史氏などが指摘しているかつての台湾における「民主と愛国」の多元性を物語るものとして理解すればいいのだろうか。
それはともかく、このたびの彼の何十年かぶりかの北京訪問(「神州文化之旅」というらしい)に合わせて、香港系のチャンネルでも連日この人の北京大などでの講演の模様を流しているのだが、確かに聴衆を煽るようなことを言うのには長けているものの、講演の内容自体はそれほど中身のあることをいっているとは思えなかった。
李氏の北京訪問やその各種メディアにおける報道のされ方を見ていると、これが今年4月の連・宋の訪中以来の一連の「民間レベルにおける中台接近」という流れの中に位置づけられたイベントであるのは明らかだが、それにしてもつい抱いてしまうのが「なんで、このオッサンが?」という素朴な疑問である。結局のところ目立つことを言うけど基本的には当たり障りのない、利用しやすい人物として中国政府に目をつけられた、ということなのだろうか?テレビでこの人が吼えている姿を見るたびに謎が深まるばかりなので、もし詳しい事情をご存知の方がおられたらご教示お願いいたします。