梶ピエールのブログ

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わしズム


昼間、本屋にぶらっと入ったら『わしズム』第15号小林よしのり氏と趙宏偉氏の対談が載っているのを偶然見つけて思わず手にとってパラパラとめくってみた。はっきりいって全然期待していなかったのだが、これがどうして、なかなかの拾いもんだった。
 対談といっても、基本的に中国の対日政策について趙氏が自身の分析を披露し、よしりんがそれにツッコミを入れる、というスタイルになっているのだが、よしりんが基本的に信頼と敬意を持って趙氏の話に耳を傾けていることがよく伝わってくるのが興味深い。もちろん、靖国問題などについては全く話がかみ合わないのだが。
 趙氏が唱えてるのは胡錦濤=一貫した対日強硬派説で、その内容は基本的に以前のエントリid:kaikaji:20050626でも取り上げた通りである。ただなにせ前回の論説が載ったのは専門家以外まず目にすることのないマイナーな雑誌だったので、前回のエントリを見て少しでも興味を持った方がおられたらとりあえず本屋で立ち読みしてみてください。
 その他、趙さんの発言の中で興味深い箇所を拾ってみると、

  • 呉儀は党内での序列は低いが、外交では胡錦濤に重用されているキーパーソン。例のドタキャンは上層部の支持で仕方なくされたのではなく、彼女自身の判断も含まれていた。
  • 江沢民は感情的なので日本が嫌いだということがはっきり顔にでるが、胡錦濤は何が起きても眉一つ動かさないタイプなのでそれが表に出ないだけ。
  • 中国政府は日本に対し一貫して非常に強硬的なのだが、そのことは国内では報道されていないので、国民にはむしろ政府は弱腰だと思われている。
  • 靖国問題小泉政権がこのまま譲歩しないと、中国政府は常任理事国としてインドネシアを推すという「奥の手」を用意している。

 ・・といったところだろうか。まあ、対談相手に合わせてなのか、アメリカは国連改革に本当に反対したいんだけど日本を刺激したくないため安保理入り支持をいち早く表明して中国・韓国から反対の声が挙がるように仕向けた、という陰謀論をぶっているところはなんだかなあ、という感じなのだが。

 さて、実は、先日清水美和さんの講演を聴く機会があったのだが、彼は基本的に胡錦濤は対日融和派で、これまでも対話の糸口を賢明に探してきたのだが、日本側の度重なる挑発的行為により強硬派(江沢民派=上海閥)の勢力がすっかり増してしまったので、現在はどうすることもできないのだという立場にたって話をしていた。いうまでもなくこの見解は彼の著書『中国はなぜ「反日」になったか』ISBN:4166603191的ではあるが、上述の趙氏の見解とは真っ向から対立する。もちろん、どちらが正しいのか僕には判断する能力はない。どちらも十分もっともらしい。しかし、はっきりしているのはどちらかが大ハズレのことを言っている、ということだ。どちらが間違っているのか、そのうちはっきりするのだろうか。
 それにしても、相手の国の首脳が本当はこっちと仲良くしたいのかどうか、という肝心なことについて、専門家の間でさえ全くコンセンサスが取れていない、というのもなんというか困ったことではある。まあ、中国と付き合うというのはもともとそういうことなのかもしれないが。