梶ピエールのブログ

はてなダイアリー「梶ピエールの備忘録。」より移行しました。

S&G Finance Book(続き)

 ブログの世界(?)もすっかり年末モードで、めっきり更新が減っているような気がする。で、そんな時期にこんな野暮な話を書いてもどうせ誰も乗ってこないとは思うが、一応書きかけ(23日)になっていた話題なので、S&G『新しい金融論』の「資本の割当」について引っかかった点を改めて書きとめおこう。

 S&G、35ページより。「情報の問題は信用割り当てだけでなく、資本の割り当ても引き起こすことになるだろう。すなわち企業は、あたかも追加資本を調達できないかのごとく行動する」。
 これはどういうことか。例えば企業が資金調達のために保有する自社の株式を売却する、もしくは新株を発行しようとしているとする。このとき、もし予想される株価が、その株式がもたらす期待収益の現在価値よりも低い水準であれば、合理的な企業はその株を売りに出さないで自分で保有しておくだろう。したがって買い手の方もやはり合理的ならば、企業が新株を発行する(もしくは株を売りに出す)時には、その株式の市場での評価は必ず期待収益の現在価値を上回っているはずだと考えるので、結局誰も新株を引き受けようとしない(株の買い手がつかない)、つまり「追加資本を調達できないかのごとく行動する」というわけだ。
 しかし、現実には企業が新株を発行する際にはそれなりに買い手はつくはずだ。とすれば、上の議論はどこかがおかしいということになる。S&Gの説明によると、実際には企業が持っている自らの事業収益に対する情報は不完全なので、資産の売買についてもリスク回避的に行動する、したがって現実の株価が期待収益の現在値より多少低くても、新株を売りに出すことがありうる、ということらしい(買い手の方がバカだから高い値段でも買ってしまう、という話ではないのに注目)。しかし、彼らは同時に、そういった企業の行動は市場にマイナスのシグナルを与えてそれが株価を引き下げることになるので、結局のところ企業は株式の売却や新株発行には非常に消極的なのだ、とも言っている。
 S&Gは「この結論には経験上、相当の証拠がある」と言っているが、本当だろうか?保有している株式の売却に関しては確かにそうかもしれないが、新株の発行に関してもそんなに消極的なのだろうか。新株の発行ってそれほどまれな現象なのだろうか。それとも上記のような議論には間接金融の役割をどうしても強調したいS&Gならではのバイアスがかかっていると考えるべきなのか。どうにもファイナンスの実務のことにさっぱり明るくないので実感がわかない。出る出るといってなかなかでない山形さんの『血も涙もない冷血ファイナンス入門』にはこういうケースもフォローされているのだろうか?

 というわけでぜひ企業ファイナンスの実務(と経済理論の両方)に詳しい方のフォローをお願いします(年明けにでもゆっくりと)。