梶ピエールのブログ

はてなダイアリー「梶ピエールの備忘録。」より移行しました。

休日のすごしかた

 土曜日には、久しぶりにサンフランシスコまで足を伸ばして、こちらに来てから出た本で気になっていたものを新書を中心に調達してきた。とにかくアメリカに関する本をあまりに読んでいないことに気がついたので、取っ掛かりとして古矢旬先生の本で勉強しようと思い、とりあえず岩波新書の『アメリカ 過去と現在の間』ISBN:4004309123(日本に置いてきてしまったので)買うことにしたが、やはりそれだけでは物足りずに東大出版会の『アメリカニズム』ISBN:4130362100 も購入。それにしても日本での定価が5800円とは高すぎる(涙)。どう考えても専門家の間だけで回し読みされるにはもったいない内容の本だと思うのだが。

 日曜である今日は、マーティン・スコセッシによるボブ・ディランのドキュメント映画、NO DIRECTION HOME(http://www.nhk.or.jp/dylan/index.html)のDVDを観る。はっきり言って傑作だと思う。3時間30分以上の大作だが、ディランの映像がどれもめちゃくちゃカッコいいのと、アラン・ギンズバーグジョーン・バエズなどの関係者が語るエピソードが非常に興味深いので全く長さを感じなかった。ディランの音楽的な背景を貴重な映像を元に詳細に描いた前半部も興味深いが、なんといってもハイライトは(前半部でも効果的に挿入される)、1966年のUKツアーライブの未公開映像だろう。「転向」したディランにブーイングしまくる客席との罵倒の応酬や、何かというと彼のパフォーマンスに政治的なメッセージを読み取ろうとするマスコミに対するディランの憮然とした対応など、伝説となったエピソードがきれいなカラー映像で残っていることにはやはり感激する。個人的にこの映画は、これまで一貫してリベラルな価値観に基づいた作品を作り続けてきたスコセッシ監督が(なにしろ出世作はあのウッドストックライブののドキュメンタリー映画だったのだ)ディランという類まれな媒体を通じて、60年代半ばという「政治的リベラルの時代」を、決して懐古趣味ではなく、ある種の苦さと自己批判をこめて振り返った作品、という見方もできるのではないかと思う。というわけで、この「保守革命後のアメリカ」でこの作品をどう受け止められるべきか、ということをひとしきり考えてしまった。まあ、そんな屁理屈をつけなくても十分楽しめる作品ですけど。