梶ピエールのブログ

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いただきもの

 著者よりご恵投いただきました。ややこしい部落問題をわかりやすく、しかしレベルを落とさずに解説した数々の著作で定評のある著者が、戦後大阪の部落解放運動を象徴する人物・小西邦彦に焦点を当て、その生きざまを一面では共感をこめ、一面では乗り越えなければならない対象として批判的に描き切った著作の文庫版です。
 この本は個人的にも思い入れのある作品です。というのも私は小西氏の息子のT君とは小中学校とずっと同級で、中学校のある時期には彼と(およびもう一人の「しんどい子」であるY君と共に)ずっと一緒に登校していたからです(本書181ページ参照)。当時小西氏はすでに離婚していてT君とは一緒に住んではおらず、私は彼がどういう人物だったのかも事件が明るみになるまでよく知りませんでしたが、彼の母親(本書では「父親」となっていますが)、つまりT君のおばあさんの盛大な葬儀の様子は、いまだに鮮明に覚えています。
 いろいろな意味で、あの頃の経験はその後ものを考えるときの原点というか、「物事はそうそう理屈だけでは割り切れるものではない」という感覚を肌で身に着けるように役立った気がします。本書が描く小西氏の存在はまさに「理屈だけでは割り切れない」ものの象徴と言えるかもしれません。その意味でこの本は部落問題について決して「わかりやすい」構図を与えるものではありませんが、問題を理解するためには避けて通れない部分に真正面から取り組んでいる力作だと思います。