梶ピエールのブログ

はてなダイアリー「梶ピエールの備忘録。」より移行しました。

これからの「人民元」の話をしよう

 どうでもいいけど、このタイトル、どんな話題でも使えそうでいいなあ。

 さて、すっかり「旬」となった感のあるこの話題ですが、私としては3月段階で書いたことをほとんど修正する必要を感じておりません。

人民元切り上げ問題と米中経済の統合度

クルーグマンvs. 中国人エコノミスト(+オレ)

 特に、下記の箇所はそのままこれからの中国経済の予測として使えると思います。

 もし今、元の増価が期待されているにもかかわらず、政府介入などにより元の実際の増価が抑えられている場合はどうなるか。これは上の式において、\Delta s^eの低下に見合うほど、Sが低下しない、という状況に相当する。ここで米中両国のGDPの値が潜在GDPに達しており、一定だとすると、両辺が等しくなるするためにはM/M*、すなわち中国国内におけるマネーサプライが相対的に上昇する必要がある。すなわち、元の増価期待が非常に高まっている(例えば年10%)状態のもとで、それより低い(年5%)程度の小刻みな元高政策をとったとすると、それは金融引き締め効果を持つどころか、むしろアメリカからの資金の流入を促し、国内のインフレ圧力をますます加速させてしまうのである。これが、元高が持続的に生じた2006年後半以降2008年夏までの時期にまさに生じたことであった。この時期、元はドルに対して年数%切り上がり続けたが、同時に中国のインフレ率はアメリカのそれを数%一貫して上回っていたのである。

米中短期実質金利(1996年1月−2009年1月)


 要は上のグラフの「人民元切り上げ期間」という矢印で示されている時期に見られたような状況が再現されるだろう、ということですな。いずれにせよ、中国の為替政策にとって本当に重要な問題とは、「いかにして「ドルの足枷」から脱して金融政策の独自性を回復するか」ということなのですが、その意味で今回の措置はいかにも中途半端であるばかりか、上記の考察が正しければむしろ「ドルの足枷」の重みを一層強める結果にしかならないのではないでしょうか。ただ、当局もその辺のことは認識していないはずがないので、あっと驚くようなとっておきの秘策があるのか、それともないのか・・・