梶ピエールのブログ

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『比較経済研究』特集:社会主義経済体制論におけるブルスとコルナイ

 収録論文は以下サイトよりダウンロード可。
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jaces/page3.htm

 昨年秋のコルナイ来日に合わせて開催されたシンポジウムの内容に基づくもの。彼自身の寄稿論文も収録されているが、単なるコルナイ礼賛の特集ではない。読み応えのある論考が並んでいるが、特に盛田常夫氏による批判的検討は必読かと。



※追記:
 hicksianさんによる世界金融危機と「ソフトの予算制約」に関するコルナイの発言のまとめもぜひ参照のこと。以下のような箇所が盛田氏の批判に直接関連していると思われるので、比較して読むと非常に意義深い。

自分は「モラルハザード原理主義者(“moral hazard fundamentalists”)」に反対するサマーズ(Larry Summers)と同様の立場を採る、と。つまりは、「どんなに大きな犠牲を払うことになったとしても政府は企業の救済などやめて予算制約のハード化に乗り出すべきである」、「この金融危機を自力では乗り切ることのできない銀行や金融機関、民間非金融法人企業はすべて倒産するに任せるべきだ」、と主張するような「モラルハザード原理主義者」には強く反対する、というのである。一方では『「ソフトな予算制約」症候群』のマイナス面を強調するコルナイ教授のこの一見すると矛盾しているかのような態度の背後にはどのような考えが控えているのであろうか?

「予算制約のハード化」を訴える立場は「ソフトな予算制約」の弊害を理解しているという意味でその診断は正当であるといえる。しかしながら、「ソフトな予算制約」の治療、特に「予算制約のハード化」を厳格に推進することに伴う副作用―企業倒産が連鎖し、マクロ経済の一層の停滞が引き起こされてしまうかもしれない危険性―に目を配っていないという点で手抜かりがある。「ソフトな予算制約」の弊害もさることながら現在の状況において無理に「予算制約のハード化」を試みることのコスト(=副作用)はあまりにも大きすぎる→現時点においては「予算制約のハード化」という治療法はとるべきではない、というのがコルナイ教授の診断である。