梶ピエールのブログ

はてなダイアリー「梶ピエールの備忘録。」より移行しました。

文革と内モンゴル

 Acefaceさんのコメントより。

これお読みになりました?静岡大学の楊海英(モンゴル名はオーノス・チョクトさんでしたが、どうやら最近帰化されたようです。名前が大野旭さんになっていました。)けっこう楊さんの著書のトーンが少しづつ変化していたので、やっぱり。と思いましたが・・・・
http://www.lupm.org/japanese/pages/Genocide_1.pdf

 楊海英氏については以前少しだけ言及したことがあるが、そのとき楊氏の著作から引用した部分を再掲しておく。

「中国はいつ崩壊するか分からない」
と日本の中国研究者たちはよくこのように発言する。(中略)確かに、中国の長い歴史を振り返って見れば、分裂と統合のくりかえしである。そのような視点に立てば、いつ崩れてもおかしくはない。
 このような言説には大きな欠点がある。それは、今を生きる人びとの思いを無視している点である。少なくとも、今の中国を生きている人びと、漢人だろうが、保安人だろうが、回族だろうが、中国の瞬時の崩壊を多分、強くは望んでいないだろう。彼らも中国にはさまざまな問題があるのを百も承知している。書斎派のシノロジストたちと違い、当事者たちは毎日のように腐敗と圧制のリアリティを体験している。それでも、彼らは現在、崩壊よりもまずは豊かになることを望んでいる。

何しろ、彼らはつい最近、やっと戦乱と政治的動乱から脱出できたのだから。そして、その戦乱の一端には日本もかかわっていた以上、日本人が中国崩壊を期待するかのような発言をするのは、やはり、慎むべきではないだろうか。

私たち少数民族に与えられた自治権は、ごく限られたものである。しかし、私たちには腰に爆薬を巻いて自爆する勇気もない。中国が瞬時に崩壊したら、西北のムスリムたちの豊かになりたいという夢もつぶれるだろう。豊かになる道を歩みつつ、中国との接し方を考え、彼らは模索している。
 もし、明日に中国が崩壊したら、私の言説も邯鄲の夢で終わったこととしておこう。
(以上、「あとがき」より)

モンゴルとイスラーム的中国―民族形成をたどる歴史人類学紀行

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