梶ピエールのブログ

はてなダイアリー「梶ピエールの備忘録。」より移行しました。

ゆるいインド

今月の半ば、調査のため1週間ほどインドを訪れていた。写真はチェンナイに近い、繊維産業の集積地にある輸出用アパレル工場のものである。インドの繊維産業は一般に、雇用保護を最優先にした労働政策のため企業側にとって設備投資のリスクが大きく、一般的に規模の経済が働かないような零細な業者が多いとされ、特に中国に比べた場合の生産性の低さが主流派の経済学からは指摘されてきた(たとえばこちら)。また、左派の側からは、綿花栽培における農薬使用、あるいは製糸工程でのワーカーの健康被害への対策の甘さといった劣悪な労働条件が批判にさらされてきた。
 今回の調査でも確かに、そういう側面はあるということは感じた。

 ただ、同時に、中国の工場にはない面白い点もいくつか発見した。たとえば、中国では考えられないくらい男性のワーカーが多いことだ。むさくるしいいい年をしたインド人のおっさんたちがミシンや服を折りたたむ仕事をしているのは中国で女工達のきりきりとした仕事ぶりを見慣れている目にはなんとなく新鮮だった。男性ワーカーが多いからかどうかはわからないが、工場全体も緊張感がないわけではないが、なんとなくのんびりした雰囲気がただよっていた。中国人経営者ならこれを一目見て「ぬるい」「これじゃダメだ」と切り捨ててしまいそうだ。確かに、何かというと罰金を取ったり、成績に悪い者の名前を張り出したりしたら労働の効率性は上がるかもしれないけど、でも本来は仕事は楽しそうにすることが一番大事なんじゃないかな。とはいっても、彼らの労賃は確かに低く、中国の3分の1から2分の1程度なので(ルピー安の影響もある)、中国の女工たちがインドのワーカーを見て「うらやましい」とはたぶん思わないだろうけど。

 とにかく酒を飲まされないとビジネスが進ないということもないし、思ったより治安も全然いいし、滞在期間中お腹を壊すこともないし、案外南インドは日本人にとって仕事しやすいのでは・・と思っていたら、今週になって突然発熱と共に全身に湿疹が出てダウンしてしまった。診断では水ぼうそうとのことだが、潜伏期間が2週間ほどなので、タイミング的にどう考えてもインドで感染したとしか思えない。これだけ何回も中国に行っていながら、滞在中に一度も感染症の類いにかかったことがないことを考えると・・やはりインド、恐るべし。