梶ピエールのブログ

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名目国防費の伸び

2007年版防衛白書が発表されたということで、新聞各紙がその内容を報道している。まあ、それはいいとして・・気になったのは7日付の日経の記事における以下の記述。

中国と台湾に関する分析は昨年より4ページ多い15ページにわたり詳述。名目上の国防費が過去19年で16倍に達したと指摘した。

名目上の国防費が過去19年で16倍??この数字をわざわざ示すことにどのような意味があるのだろうか。田岡俊次氏の『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか (朝日新書 36)』でさんざん強調されているように、このような成長率の数字を示す際にはインフレ率を考慮に入れた実質値でなければ意味がないはずだ。通常、一国の経済成長率をみるときに名目成長率だけをみても意味をなさないように。実際、1986年から2005年までの19年間に、中国の名目GDPは17.9倍に(10274.4億元から183956.1億元へ)、また政府財政支出は15.4倍に(2204.91億元から33930.28億元へ)、それぞれ達しているのだが・・
 上述の田岡氏の著書によれば、米国防総省も1990年代初期までは報告書などにおいて中国の国防費の伸び率を名目値で示していたが、その後は実質値を使用しているという。しかし日本の防衛省は依然として名目値にこだわりがあるようだ。
 他紙の報道もざっとみてみたが、この「名目上の国防費が過去19年で16倍」という数字をわざわざ紹介しているのは日本経済新聞だけのようだった。仮にも経済専門誌である日経の記者が名目値と実質値の違いが分からなかったということはないと思うが、なにか特別の理由でもあるのだろうか・・というわけで考えれば考えるほど、謎の多い記述である。