梶ピエールのブログ

はてなダイアリー「梶ピエールの備忘録。」より移行しました。

それでもインドは中国に勝てない?

http://neweconomist.blogs.com/new_economist/2007/01/china_india_2.html

 えー、タイトルは釣りという事で一つご了解ください。
 元記事は'Reading the tea leaves'と題したEconomist誌の記事で、以下のインドと中国の公式統計を用いた研究論文を元に、両国の各産業の生産性に関するいくつかのファクトファインディングが紹介されている。
http://www.tcf.or.jp/data/2006120607_B_Bosworth-S_Collins.pdf

要点をざっとメモするとこんな感じ。

・労働力の成長率は、当然のことながらインドが中国を大きく上回っているが、中国にはそれを相殺してあまりある労働生産性の上昇が見られる。中国における労働生産性の高い伸びは、積極的な投資活動だけではなく、TFP全要素生産性)の成長(=技術進歩)によってももたらされている。
・1993-2004における全産業の年平均TFP成長率は、インドが2.3%であるのに対して中国は4%である。通説によれば中国のTFP成長率は90年代以降低下してきていると言われているが、Bosworthらの研究(上記のペーパー)によれば、1993年以降むしろ上昇傾向が見られる。
・産業別では、サービス産業についてはインドが中国を上回っている(ただし、Bosworthらの研究によると、インドのサービス業における急速なTFPの伸びも疑わしいという)ものの、農業と工業においてインドは中国に大きく後れを取っている。
・インドの工業部門のTFP成長率は、経済自由化が行われた80年代以降上昇しているものの、依然として中国を大きく下回っている。例えば1993年以降の中国の工業部門の年平均TFP成長率が6.6%であったのに対し、インドはわずか1.1%でしかなかった。また、1999-2004の平均値は、1993-99に比べて若干低下している。
・通説的な理解では中国の経済発展は農業労働力が急速に工業に吸収されたことにより生じたと考えられているが、実際は中国におけるよりダイナミックな労働力移動はむしろ農業部門からサービス部門に対して生じていた。例えば、1993年以降の中国におけるサービス産業部門の労働力の上昇率は、工業部門の約4倍であった。
・インドの工業部門では、特に中小企業における労働力は大きく増加したものの、生産の伸びにつながらなかった。工業部門の低い生産性をもたらしている主要な要因は、硬直的な労働法の存在と、インフラ整備の遅れであると考えられる。

 ・・両国の公式統計の精度の問題はもちろん存在するが、以前紹介した企業のミクロデータを用いた研究の結果とも整合的に思えるが、どうだろう。
http://d.hatena.ne.jp/kaikaji/20061002#p1
http://neweconomist.blogs.com/new_economist/2006/10/china_vs_india.html
http://d.hatena.ne.jp/ryozo18/20061016/1161012889