梶ピエールのブログ

はてなダイアリー「梶ピエールの備忘録。」より移行しました。

ようこそ、羊さま

 「中国映画の全貌2006」という特集をやっているので久しぶりに九条のシネ・ヌーヴォを訪れる。あいかわらず場所わかりにくいなあ。
http://www.cinenouveau.com/china2006_hp/china2006.html

 さて表題作は一言で言うと(地方)政府による、「農家の実態を無視した農村援助」を痛烈に批判したものだ。舞台は雲南省の山岳地帯にある、気候が寒冷なため牧畜が主要な生活手段なのに、土地がやせているため羊が食べる草さえろくに育たない貧しい農村である。視察に訪れた県(county)の役人は村人の窮状をみかねて、村の貧しい中年夫婦に珍しい外国種の羊をプレゼントする。もし飼育がうまくいけば行政の貧困対策プログラムとして村に正式に補助金が下りることになるというのだ。中年夫婦、それに村長は、貧しさから抜け出るために一生懸命羊に栄養をつけさせ、子供を生ませようとするのだが・・

 これまで張芸謀の『あの子を探して』など農村の貧しさを描いた中国映画は比較的多く存在するが、この作品は、上にはへつらい農民には尊大に振舞う役人たち、その役人たちの点数稼ぎの手段と化している貧困対策プログラムなど、明らかに具体的な(地方)政府の実態を批判する意図で作られており、政治的には一歩踏み込んだものだという印象を受ける。
 ただ、いかにも田舎の俗物そのものといった描かれ方をしている農村幹部たちはあくまで村長・郷長・副県長といった行政サイドの人間であり、本来は彼らより権力を持っているはずの共産党書記は最後まで登場しない。やはりこの辺が表現のコードぎりぎりなのだろうか。