梶ピエールのブログ

はてなダイアリー「梶ピエールの備忘録。」より移行しました。

ナマ李振盛とアメリカにおける文革ブーム?

 李振盛といっても「誰やそれ」という人がほとんどだろう。元『黒竜江日報』という中国の地方紙のカメラマンで、文革期に「模範的記者」として撮影した、当時の様子を伝える貴重な秘蔵写真の数々が『紅色新聞兵』(ファイドン)ISBN:4902593130ており、日本でも今年翻訳されかなりの話題になった。ちなみに、収録された写真についてはこちらを参照。

 実はこの20・21日、UCBで文化大革命に関するシンポジウムが開かれ、李氏もそのパネリストの一人として参加していたのだ。僕は李氏の単独の講演会は聞くことができなかったのだが、その夕方に行われたパネルディスカッションには参加して彼の生トークを聞くことができた。このディスカッションは、歴史家だけでなくAndrew Walderなどの著名な社会学者も参加するなど学際的なアプローチのものであったこと、またその中でも、李氏が呼ばれたことからわかるようにメディア・ジャーナリズム研究からの視覚が重要な位置を占めていたこと、などが大きな特徴といえるだろうか。

 もともと、李氏の写真に注目し出版にこぎつけるきっかけを作ったのはイギリス人とフランス人が中心のジャーナリストのグループで、これまでもヨーロッパではパネル展示にあわせた講演会などが何回か行われていたようなのだが、これをきっかけにアメリカでも積極的に講演活動を行っていくのかもしれない。実際、まあチャイニーズが多いせいでもあるのだが今回のシンポジウムに対する関心は非常に高くて、聴衆は200人は軽く超えていたと思うし、同時に開かれていた即売&サイン会では李氏の結構な値段のする本がかなり売れていた。UCBだけではなく、このところアメリカの知識人層の中でかなり文革に対する関心が高まっているという印象を受ける。あるいはユン・チアン(『ワイルド・スワン』の著者)が最近書いたこの本の影響だろうか(。

 李氏は、文革について学者のように分析的に語るタイプではないが、とにかくエネルギッシュであの時代のことについて語りたくてたまらないという人のようで、「この写真を公表することにしたのは、私が国を愛し、民族を愛し、人民を愛しているからだ!」と力説していたのが印象的だった。文化大革命については、日本でもかなりの研究蓄積があるわけだし、いつかぜひ日本での講演も実現して欲しいものだ。


#10月23日追記。本日付のNYTにニコラス・クリストフによるユン・チアンの著書の書評(つってもすごく長い)が掲載されている。